熱心に弓へ向かう男がいる。
「今思えば、あの頃は何も考えていなかった」。
この1,2年で大きく射技・的中を向上させた彼の言葉の裏にあるものを追う。
一回生時の夏合宿の的中率は32%、翌年は39%。
先輩から指導をもらった時、他の考え方を知らず「これが正しいんだ」と思い込んだ。
言われたことを鵜呑みにして考えることを放棄し、機械の如く矢数をかけた。
何も成長していなかったというよりは、何もしていなかったに等しかった。
先輩が引退した後、考えに考え抜いた。
自分の射技に納得できたときがなかったことに加え、
中る後輩や大学から弓道を始めた他大学の同期が
好成績を収めていることに刺激を受けた。
人の射の観察をして、なぜこうなるのか。
撮影したカメラの映像や今の感覚から、どこがおかしいのか。
先達の教えが書かれた本を読み漁り、
毎日のフィードバックも欠かさなかった。
監督からもらう指導を元に小さな努力を積み重ね、
散らばった点は一つの線になり、予感は確信へと変わっていった。
「矢数が足りないということはあるが、矢数が足りるということはない」。
自分が良いと思うものへなかなか近づけない。
だから考えて、これはと思ったら即行動。
飽くなき探究心を持って挑む彼の背中を見て、
自分たちは徒らに矢を放ってはいないかと問いかける。